自分専用の試作(思索)の部屋

ハイネック型マフラーを発案した翌日には、もう試作を試みていた。しかし、ちょうどよい布地のものが見つからず、思いきって厚めの防寒靴下を切って、それで作ることにした。偶然にも靴下の湾曲部分が、ちょうどハイネックの肩部分の湾曲に適合し、しかも2足あったので、それを縫い付けることで、イメージ通りの形とすることができた。マジックテープも購入し、オス型とメス型それぞれを、首にあたる両端部分に縫い合わせた。それを前から首に掛けるようにして、後ろで繋ぎ留められるようにしたのだ。連結した後、胸元の布地部分はシャツの中に入れるわけだ。

翌々日には試作2号、3号も作った。それらは実際のハイネックセーターを切って作ったりもした。寒い日には、それを首につけて外へ出掛けた。他人からは予想通り、普通のハイネックセーターだと思われていた。そこで、屋内に入った際に、それをここぞとばかりに瞬間に取ってみせた。

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その様子を目撃した知人や友人は、「まるで手品でも見たようだった」と言っていた。 また、「何処に売っているのか教えて」という声も得た。中には「あなたはコメディアンですか?」という声もあった。 それは自分が試作したものであり、売っているものではないと言うと、「じゃ、自分にも作って!」と言われることが多かった。特に女性のほうが欲しがっていた。

そこで、「これは売れるのは間違いない」と思った。また、こういう様子も売り込み文章に書いておいた。多くの人に発明を見せることで、共通した反応を知ろうとしたのだが、これが結構、楽しみでもあったのだ。このように、発明の醍醐味はそれを形にするときでもある。あるいは、アイデアを形にする醍醐味ともいえる。そして、アイデアを形にするには、そのための思索と試作の過程が必要である。そのためにも、落ち着いた気分でジックリと集中てきる場(部屋)を持つことだ。

1996年の3月4日のことである。知り合いの若い女性に「いま、不便に思っていること、そして、それがどうなったら便利になると思うか」と質問をしてみた。すると、「爪に貼るシールが物に擦れて剥がれたりしやすいので、それが剥がれないものがあればいいと思う」という答えが返ってきた。爪に貼るシールとは、当時、若い女性の間で流行りつつあった、爪に貼るお洒落なシールのことである。それには色々なマークや彩色されたイラスト、デザインなどがあった。 いまの爪シールは、擦りつけて貼るものが主流で、剥がれにくくなっているのだが、当時の爪シールには剥がれやすいものもあったのだろう。

しかし、予期しない答えに、思わず詰まってしまった。本当は、日常の不便さの中に、発明のヒントを得ようとして、質問したのだった。若い女性の間で流行っている、爪用のシールの不便さを聞いたところで、自分にはどうしようもないな、とも思った。ところが、次の瞬間、閃いた。

「シールだから剥がれるのだ。だったら、シールでない形で、マーク(模様)やイラストが爪に付けられればいい。それでも、爪にシールを貼るところが受けているのであれば、逆にマーク(模様)とイラストの部分以外をシールにしたらよいのでは・・」模様をシールにするのではなく、模様以外の部分をシールにする、逆転の発想である。 つまり、模様の部分だけが鋳型のようにくり抜かれており、周りの部分がシールであれば、これを爪に貼り、その上からマニキュアなどで色を塗り付ければ、シールではないマニキュアで塗られた模様が浮かびあがるはず。ステンシル的な発想というわけだ。

このアイデアに、またまた試作に没頭することになり、さっそく「試作の部屋」で作業を開始した。文房具で買ってきた爪の大きさくらいの無地のシールに、カッターで色々な模様(ハート型、星型、英語のアルファベットなど)をくり抜き、それを自分の爪に貼ってみた。ところが、マニキュア液が無かったことに気がつき、仕方無く、修正液を塗り付けてみた。

乾いてからシールを剥がすのは、マニキュア液でも同じはずだ。そうこうするうちに修正液が完全に乾いたので、シールを剥がしてみた。すると、白色(修正液の色)であったが、くっきりと綺麗に望みの模様が爪に浮かび上がっていたので、これは商品化できるかもしれない、と思うに到った。

試作品をその女性のところへ持っていき、こんどは本物のマニキュアをつけてもらった。結果は、予想以上に良い出来ばえだった。そこで、さっそく特許出願書類と売り込み文章などを作成しはじめた。特許願書の発明者の欄には、この発明のヒントを与えてくれた、女性の名も連名で記しておいた。

しかし、こんな簡単な発明でも、権利がもらえることがあるのだろうか、あるいは、発明を買ってくれる会社などあるのだろうか、という疑問も頭をよぎった。それほど簡単に、試作品も、特許書類も作成できたので、もし、こんなものでロイヤリティがもらえるとしたら、それこそ「悪いなぁ」なとど考えてしまったのだ。

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