はじめての本格的な発明体験

何か特殊な用途にしか使われなかったり、一部の人の気しか引かないような、マニアックなものよりかは、もっと大衆に受けそうな、それでいて製作コストもそれほど掛からないような、そんな小物発明を手がけてみたい、と強く思うようになった。それが、いまから4年ほど前の、1996年(平成8年)2月頃のことであった。

そんなある日のこと、パソコン好きの友人から、インターネットやパソコンの見本市に誘われ、とりあえず、幕張メッセの会場で待ち合わせを約束した。 約束の日・2月24日は、2月の中でも、かなり寒い日であった。

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そこへ赴く途中、乗り換えのために降りた「南船橋駅」のホームでは、空気が凍っているような寒さをおぼえた。その余りの寒さのために、電車到着が遅いのを恨むほどであった。キリで皮膚を刺されるような、刃物のような冷たい風も吹いていたのだ。

ホームには、長いマフラーを無駄に引きずっていた男性の姿が目についた。・・・と、その途端、閃いたのだ。以下のように。 マフラーはかさばるし、邪魔にもなる、でも、まずは首を寒気から守りたいものだ。首が冷えただけでも体全体が冷えるようだ。では、ハイネックセーターの首の部分だけをもっと効率よくしたものはどうだろう・・風邪を引くのも首を冷やすことから始まると考えていたし・・というわけで、「ハイネック型のマフラー」は便利かもしれないと思い付いたわけだ。

さらに、それを単なる防寒具にするのではなしに、従来のハイネックのファッションをも楽しめるようにしたらどうか、などとも考えてみた。襟元から胸元の部分までを布地などで覆えば、その上からブレザーやジャンバー、あるいは厚めのシャツを着ることで、よく見掛けるハイネックのファッションそのままにもなる。つまり、防寒具と装身具としての機能を兼用できるわけだ。

また、従来のハイネックセーターでは首部分が細いために、これを被る際に、整髪(セット)した髪がくずれるという欠点があった。しかし、このハイネック型マフラーはセーターではないので、被る必要はなく、たとえば首に巻くようにして、首の後ろでマジックテープなどで留めるという形にもできると考えた。こうすると、整髪した後に装着しても、髪がくずれることはない。それに付加価値的には、従来のハイネックセーターで、その上にシャツを着る場合、胴部分の余分な先をズボンの中におさめたりすると、ウエストが締めつけられるとともに、ウエストラインが太く見えてしまう傾向にあったのが、この発案ではもともと胴部分がないので、美容上もメリットがあると思われた。

ハイネックセーターの場合、冬など外では重宝するが、暖房のよく効いたオフィスやデパートに入ると、かえって襟元部分が暑苦しくもなった。ところが、これは後ろのマジックテープをはがすことで簡単に取り外せ、また反対に、外出時にはシャツやブレザーの上からもマフラー感覚で簡単に装着できるわけだ。取り外した際も、マフラーのようにかさばらないので、カバンやコートのポケットに収まり、食堂などに置き忘れることもない。

しかも、マフラーよりも首にフィットするので保温にも優れ、春先や秋口のようにマフラーを着けるには大袈裟に思われるような時でも、なんら違和感はない。さらに、一回の外出でハイネックとローネックの2つのお洒落を楽しむこともできる。またリバーシブルなら、布地の裏表を異なる色にすることで、一着で2色を楽しむこともできる・・というように、状況に応じて瞬間的に着脱自在な、この「防寒具兼用装身具」のことを考えながら、待ち合わせ場所に着いたのだが、それに神経が集中していたので、そこに着くまでは、あれほど酷かった寒さのことさえ忘れているほどだった。

その後、これと類似のものが既にないか調べてみたが(簡単に)、まったく同じものは市場に出ていないようだった。似ているものとしては、スキー用品として首だけを温める防寒グッズぐらいだったと記憶している。そこで、特許の出願書類を作成しはじめ、5月には出願を済ませておいた。

その後は、衣料品メーカーや日用品メーカーなど数社に、売り込みの手紙を送ったりした。それが私にとって初めての売り込みの経験だったのだが、反応(返答率)は意外とよかった。会社からのコメントには「良いアイデア商品ではありますが、当社のまだ扱っていない分野の商品であり、・・」とか「アイデアとしては素晴らしいものがありますが、当社では商品化の力がありません」などがあった。

また、「ご提案の件ですが、現在弊社では社外の方からの商品提案等に、お応え出来る窓口がございません。・・でも、実用性としてはものすごく良いと思います。今後もしこの様な商品を扱う場合がありましたら御連絡さしあげます」というものまで。それらは丁寧な断りの表現だということは分かっていても、やはりこういう返答は嬉しいものである。第一、半分以上の会社が返答をすぐにくれたことが意外だった。しかも、粗品まで付けて返事をくれる会社もあった。

数社からは断りの理由として、「類似品があること」を挙げられていた。そこで、通販のカタログやデパートなどで、もう一度類似品の調査をしてみた。すると、たしかに首を温めるというコンセプトで一致した商品も幾つか見つかったが、それらはすべて「頭から被るタイプ」であった。よって、特許でも記した「被らないので整髪がくずれないこと」に違いがある。第一、それらの商品は防寒用だけであり、ハイネックファッションとして使えるものはなかった(ように思う)。そのまま、首に太いバンドをしているようなものであり、むしろファッション的にも問題があるのでは、と思ってしまったくらいだ。

そこで安心して、再び数社に売り込み手紙を送ったりした。やがて、そのうちの一社から「テスト販売をさせて欲しい」という旨の返事が来た。愛知にあるD社であった。そこで、こんどは特許書類や資料、PR文などと一緒に、試作品も送ることにした。それから何ヵ月かして返事が来たが、結局、コスト的な問題で販売商品にするには到らなかったということだった。でも、それまでの楽しみを与えてくれたし、なによりも、こうした(個人発明家の喜び)体験もできたので、それだけでも十分、満足だった。

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